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福島出身・廣木監督「彼女の人生は間違いじゃない」| 被災者 ふさがらぬ心の穴
福島出身・廣木監督「彼女の人生は間違いじゃない」
被災者 ふさがらぬ心の穴
_廣木監督はピンク映画出身で、必要とあれば、濃厚な性描写をためらわない。ホテルの一室でのみゆきと客のシーンには、目を背けたくなる観客もいるかもしれない。その分、生活に困っているわけでもないみゆきがなぜ東京でデリへル嬢に変身するのか―との疑問が膨らむ。
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■生の確認
_みゆきには、モデルがいるわけではない。廣木監督が生みだした想像上の人物だ。「福島は(放射性物質の)汚染土を削り取って入れた大量のバッグが山積みのまま放置され、不気味な風景が広がり、ひどいことになっている。現実がイメージを超えている。東京へ電気を送るために、こんな目に遭ったのに、東京は便利で快適な生活のまま。この矛盾の犠牲になったのが彼女 (みゆき)だ」と廣木監督は語る。
_この説明を補うように、同監督が撮った映画「ヴァイブレータ」(2003年)の原作者赤坂真理さんが、河出文庫の小説「彼女の人生は間違いじゃない」に、次のような解説文を寄せている。
_「大きすぎる衝撃を受けた人 は、同じくらいのことをしてバ ランスを取らなければ生きていけない。(中略)デリヘルはぎりぎりの『安全な危険』かもしれない。 (中略)死なないように小さな死を繰り返す。そうして確認する。生きていることを」
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■取材基に
_みゆき以外の映画の登場人物たちも、かつての生活を失い立ち直れずにいる。パチンコ潰けの修はもちろん、家族が宗教にのめり込んで家庭が崩壊した市役所の同僚、仮設住宅で自ら命を絶とうとする住人…被災地の人々への取材で得たエピソードを登場人物の背景に置くことで、生身の人間をリアルに描いている。
_「映画は感情の記録。自分たちの撮る映像の中に、その時代の気持ちがちゃんと出ると信じている」と廣木監督。ドキュメンタリーとは違う手法で、いまの福島を、ひいては日本の問題をえぐり出そうとしている。
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廣木監督と田中教授が対談
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_映画「彼女の人生は間違いじゃない」を上映している札幌・シアターキノで、23日、廣木隆一監督と、映画に詳しい田中綾・北海学園大教授(日本文学)が、作品をめぐり対談した。一部を紹介する。
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東京は快適「すごい矛盾」
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田中 監督が一番描きたかった世界とは。
廣木 震災後の風景を見てショックを受けたときの感情をメモしていて、それをまとめたのが小説。映画をやろうとしてロケハンで現地へ取材に入ると、小説を書いたときとは違う自分が現れた。それが今の映画になりました。心の整理に6年くらいかかりました。
田中 取材はどのようにしたのですか。
廣木 例えば漁船をチャーターして原発の実景を撮りに行ったときは、漁師さんが、奥さんが津波で流されて遺体がいまだに出てこないという話を、とうとうとしてくれました。とても映画ではかなわない話。その気持ちを映画の中でどうやって表現しようかなと考え、みゆきの父が(冷たい海に眠る妻のために)洋服を海へ投げ入れるシーンになりました。
田中 みゆきが東京へ通うのは、搾取される側にとどまらないための、挑戦のようなものですか。
廣木 東京が快適なままという矛盾をそのまま映画にしようとしたのが一番大きいです。すごい矛盾の中で生きているなと思って。
田中 (桜並木を撮った) ファーストシーンが印象的でした。
廣木 仮設住宅にはってある写真を提供してもらうと(立ち入れなくなった) 桜並木のもとに3人家族が写っている写真があり、二度とここへは帰れないという決意が感じられました。切ない写真。ファーストシーンはここにしようと決めました。
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ひろき・りゅういち 1954年、福島県喜多方市生まれ。高校まで同県郡山市で暮らした。82年ピンク映画で監督デビュー。男女の情愛を描いた作品に「ヴァイブレータ」(第25回ヨコハマ映画祭監督賞)、「軽蔑」「さよなら歌舞伎町」など。青春映画の近作に「オオカミ少女と黒王子」「PとJK」などがある。震災後の福島のドキュメンタリーも製作している。