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全国映画よもやま話

ゆうばり国際映画祭 閉幕

2017年3月14日(火) 北海道新聞 夕刊

 

ゆうばり国際映画祭 閉幕

評価定着 資金面に課題

 

第27回ゆうばり国際ファンタスティック映画祭(実行委員会主催、北海道新聞社特別後援)が閉幕した。再開後、10回めの節目の年になった今年は2日から6日までの期間中、約1万2500人が訪れた。多くの才能を発掘してきた実績から、国内外で高く評価される一方で、安定した運営に向けた資金確保など課題も残っている。(中村公美)

 

「全国の人たちにSOSを発信する時期にきているのではないか」―。同映画祭のゲストとして夕張を訪れた俳優の斎藤工は開幕初日の2日、名誉大会長を務める鈴木直道夕張市長に、強く訴えた。斎藤が応援していた「なら国際映画祭」が昨年、市の補助金が全額カットされたため、開催が危ぶまれたことが念頭にあった。斎藤は、「夕張の映画祭は監督をはじめ、多くの映画人を育ててきた邦画界にとって特別な存在」としたうえで「より多くの人に協力を呼びかけ、100年の単位で存続を考えてほしい」と強調する。

斎藤のように「ゆうばり映画祭」の役割を評価する映画関係者は多い。2010年に初監督作品が北海道知事賞を受賞したことを機に映画の世界に入った韓国のヒョン・スルウ(30)は、昨年の福岡インデペンデント映画祭でグランプリを受賞するなど国内外で活躍。夕張を訪れたヒョンは「ここで築いた人脈が、作品を製作する力をくれた。この映画祭との出合いがなければ、自分は今、映画をつくっていない」と話す。昨年のオフシアター・コンペティションでグランプリを受賞した小林勇貴、2013年から毎年作品が上映されている酒井麻衣の両監督は、ともに年内に劇場作品が公開される。いずれも「夕張」がきっかけのメジャーデビュー。近年はこうした若手の活躍が顕著だ。

同映画祭の深津修一プロデューサーは、多くの才能を発掘し続けてきた理由の一つを「自治体などの公的な資金を頼りにしない、民間主導ならではの自由な雰囲気」だとみる。

それは一方で、財政的な不安定さにつながっている。同映画祭の運営費は人件費や会場費などで最低でも6千万円が必要だが「毎回確保するのに“綱渡り”の状態」(事務局)。最大の頼りはスポンサーの協賛金だが「景気に左右される面が大きく、常に不安がつきまとう」(深津プロデューサー)という。

そのため、一昨年から企業や個人から広く寄付を募る「サポーターズ制度」を導入。これまで40口の申込があるが、収入の柱となるにはほど遠い状態だ。今後は同制度の周知を徹底するほかインターネットを通じて協賛者を募るクラウド・ファンディングの活用、「ふるさと納税」との連携強化などを視野に入れる・

これまで毎年苦労していたボランティアの人材確保には明るい動きもある。北海学園大が講義と映画祭の参加を組み合わせて単位取得を認める「地域活性化プロジェクト実習」を初めて実地。昨年の倍近い約100人の学生がボランティアとして現地に滞在し、運営を支えた。同大4年の伊藤澄香さんは、総合受付を担当。「東京出身なので、地元の人の温かさが印象的だった。卒業後も観客としてまた帰ってきたい」と目を輝かせた。実習を企画した同大の西村宣彦准教授は「現場に行くことで、講義の内容が身近なものになったのでは」とし、来年以降も継続して取り組む考えだ。