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JASRAC「興行の1~2%」VS. 映画界、上げ幅抑えた対策
2017年12月6日 朝日新聞朝刊
JASRAC「興行の1~2%」VS. 映画界、上げ幅抑えた対策
上映権使用料 どう決着?
外国映画で使われている音楽の使用料をめぐって、日本音楽著作権協会(JASRAC)と映画業界が対立している。大幅な値上げを求めるJASRACに映画館の団体は反論し、上げ幅を最小限にとどめる対案を示した。入場料の値上げにつながりかねないこの動き、両者は折り合えるのか。
JASRACが、映画館などで作る全国興行生活衛生組合連合会(全興連)から徴収する映画音楽の上映権使用料は、外国映画では原則、1作品につき18万円。どんなに映画がヒットしても金額は変わらないため、「興行収入の1~2%」という歩合制への切り替えを全興連に求めている。先月8日の会見でJASRACの浅石道夫理事長は「興収の1~6%」としている欧州諸国を念頭に「我が国はあまりに低い」と訴えた。
これに対して全興連は同29日、こうした認識は誤りだとする声明を発表。映画館の営業利益率は3.52%なのに、興行収入の1~2%を取られれば「経営の存率基盤が揺らぐ」と主張し、使用料についてはJASRACに対案を示したとした。
関係者によると、対案では映画館に配給した素材の数が100未満の作品=18万円△100~300未満=20万△300以上=25万と、公開規模に応じた仕組みを提示。しかし、2014年に興行収入250億を記録した「アナと雪の女王」の場合、全興連案では25万、JASRACの案では最大5億円と、実に2千倍の開きがある。
大手配給会社の担当者は「一律定額も大変だが、JASRACの値上げ幅はあまりに大きすぎる」。別の配給会社幹部は「映画を文化ととらえて政府が補助金などで支える欧州とは事情が異なる」と訴える。
ただ、今の徴収方法が全興連とJASRACの間で決まったのは1964年。その後、独立系のミニシアターや配給会社が数多く生まれるなど、実態に合わなくてっているのも事実だ。
映画ジャーナリストの大高宏雄さんは「映画界も今までなあなあで済ませてきたことも否めない。両者が結論を急がず、知恵を出し合えば解決点は見えてくるはず」と話す。
「映画館に配慮を」専門家
JASRACの大橋健三常務理事は、全興連の改定案を「一歩を踏み出していただいた」と評価する。「映画業界の成功をにらみつつ、少しずつ上げていきたい」と、まずは小幅でも値上げを勝ち取る戦略を描く。
JASRACの上映使用料の年間徴収額は約2億2千万円。うち約7千万円の外国映画分を2倍前後に増やし、上映スクリーン数に応じて使用料を計算している邦画との「内外格差」を解消したい考えだ。
なぜ今、値上げなのか。大橋氏によると、ハリウッド映画など世界的なヒット作に楽曲を提供している米国や英国の作曲家を抱える著作権団体が近年、日本での徴収強化を求め、「『ゼンコーレン』の名も把握し、交渉の行方に強い関心を示している」という。一方、CDの売り上げが減少し、「徴収額を維持しようとJASRACが新たな対象の掘り起こしに必死になっている」(著作権業界関係者)との見方も強い。JASRAC広報部は「徴収が不十分な分野を一つひとつ押さえているだけ」と説明する。
国内外の映画音楽を手がける坂本龍一さんは「作曲家は映画会社や監督からの発注で楽曲を提供するため、立場が弱い」とJASRACの主張に一定の理解を示す。ただ「街の映画館の経営を圧迫するようなことになっても胸が痛い」。著作権に詳しい福井健策弁護士は「売り上げを反映させた使用料にするのは合理的」とみるが、「JASRACが圧倒的に巨大な権利団体である以上、公約インフラとしての責任がある」と指摘。「徴収する際の料率は、他の権利者との取り分とのバランス、配給会社や映画館の利益率などへの配慮も必要」と話す。
(編集委員・石飛徳樹、赤田康和、伊藤恵里奈)