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「歩いても 歩いても」プレミア上映

司会「本日は歩いても歩いても特別プレミア上映にお越しいただいてまことにありがとうございます。連休明けに阿部さんからスケジュールが1日空きましたと、是非行きたいとお話しをいただいて、3週間しかないと本当に心配だったんですが、本当にたくさんの人たちにお越しいただいて大変うれしく存知あげます。

本日司会進行を務めます、シアターキノ代表の中島ようと申し上げます。
よろしくお願いいたします。」

司会「歩いても 歩いても」主演の阿部寛さんです。是枝裕和監督です。まずお二人から1言ずつ挨拶をお願いいたします。

阿部「えー、今日は大勢のお客さんいらしてくれましてありがとうございました。僕は、この映画のお話をいただいたときすごくうれしかったです。
是枝さんの作品で、家族というホームドラマができたことがすごくうれしかったです。
本当に色んな人たちにみてもらいたいのでよろしくお願いします。」

是枝「こんばんは、あの新作を持って札幌に来れたことを大変うれしく思います。
自分にとってはとても特別なプライベートなところから出発した、小さな映画のつもりで作ったのですがそれが素晴らしいキャストと一緒に、皆さんのところに届く映画になったかなと思っています。」

司会「少しプライベートなこととおっしゃっていましたが、今回の作品はご自身の体験が少しでているとお話しを聞いておりますので、そのあたりを」

是枝「今までは、僕はテレビのディレクターなのでドキュメンタリーの取材をする延長戦で映画を作っている、そんなところがあったのですが、今回は、三年ぐらい前になりますが母親を亡くしまして、父親は7年前ぐらいに亡くなってまして、亡くなってから気付くことがたくさんあって、あんなことを言わなきゃ良かったなとか、もっとこんなことしとけば良かったなとか、そんなことばかりが亡くなった後に残ってしまいまして、特に母親はなくなる前に2年ぐらい病院に入院していたのでそれまでほったらかしにしていた後ろめたさからですね、
日々仕事の合間に病院に通って、色んな思い出話をしたり、看護婦さんの悪口を聞いたり、
いろいろとしていたので、亡くなった後にその時間を形にして先に進みたいなと思い非常に個人的な思いから脚本を書き始めて、出来上がったのがこの映画なので。
自伝じゃないですが、映画の中で主人公の阿部さんから見た母親、阿部さんからみた父親
っていう存在、その関係とか距離というのをかなり自分の母親、父親との関係が重ねられている映画になりました。」

司会「それでは、是枝さんが主演に阿部さんをというお考えになったあたりを少しお話し願いますか。」

阿部「正直に」

是枝「第1稿を書いているとき、キャスティングをイメージしないで自由に書くんですが、第1稿が終わった時にいつも自分でキャスティングをやります。今回はこの非常に自分のダメなところや、小さいところや、嫌なところとかそのまま出そうと思った主人公なんですけども、誰にしようかなと思っているときにチンパンニュースというフジテレビ系のバラエティ番組がありまして、ただチンパンジーとゲストが絡むというだけのバラエティーに阿部さんが出られていて、絡むというよりは、チンパンジーに絡まれているだけの10分間が過ぎた時に、あっ、この人だ。という、とても本人にはチンパンニュースを見て是非!と言えなかったのですが、翌日事務所に電話をしてオファーをさせていただきました。それが、正直なとこなんですが。」

司会「ありがとうございます。そういう理由は知らなかったんですか?」

阿部「最初は知らなかったですね。監督とお会いしてしばらくした時に聞いたときに、正直、普段そういう番組にでないのですが、出てみるもんだなと思いましたね。その番組はこっちでは放送されていないでしょうが、チンパンジーが司会している番組で、司会者がチンパンジーだけなんですよ。二人で、チンパンジーと対して10分もたせるという。」

司会「今回ははじめて組まれる方も多いかと思いますが、撮影の現場はいかがでしたか?雰囲気とか。」

是枝「楽しかったですよ。こういうとこ来るとみんな楽しかったって言うんだよね。笑
夏休みをほぼ7月終わりから8月、9月頭ぐらいまで1月半東京の東宝の撮影所とその他、海沿いの町を使って撮ったんですけどね。映画の中と同じような時間が映画の外にも流れていて、撮影の合間に表にでると希林さんとYOUさんがなんか悪口を言って笑い合っていて、その傍で夏川さんもこんなに笑ったのは生まれて初めてと笑っていて、阿部さんが通りかかると3人がちょっかい出して、いじっているという感じが。いじられている阿部さんも意外と悪くないなという感じをもたれてる。ってのが、映画の中そのままなんですよね。
それを見ている僕も、なんかこれも映画の中でやってみようかな。と思うような地続きな感じ。
撮影の中と外が。それがすごく去年の夏はいい時間を過ごしたなという印象が僕の中には残っています。僕の中にはね。役者さんがどう思われたかはあれですが。」

司会「阿部さんはいかがでしょうか?」

阿部「あの、女性がすごく強いんですよね。それで僕は良多という次男の役なんですが、その役と父親が原田芳雄さんがやられている役はちょっと出遅れる男の役なんですよ。お互い小さなことをものすごく気にする人で、その男の小ささがすごく面白かったんだけど、その中で母親、姉、嫁がものすごく強くて、現場でね。その雰囲気のまま夏をすごせたというのがすごく僕もこの作品をやりながら楽しかったし、同じ設定で現場にいれたという貴重な体験もできたのですごく心地よい夏でした。」
司会「ありがとうございます。阿部さんご自身はこの完成を作品としてご覧になって、是枝監督と組まれるの始めてだと思いますが、作品ををご覧になってどう思いますか。」

「なんか自分が今までにない顔をしてるんですよね。僕はそう思ったんですけども、役者だから色んな顔をしたいなと思って色んな作品に取り組んでいるのだけれども、今まではエキセントリックな前に出る強い個性の役でそれを挑んできたんだけど。
今回はほんと普通の男の役で、自分は別に何か自分として、表現を強くして目立とうとかそういうことは一切是枝さんの作品では辞めて家族という共演者のなかに身を沈める。
普段僕は結構ぼそぼそしゃべるんで、聞こえづらいこともあるんだけど、そのままでいいてみようと思って無駄な抵抗をしないで是枝さんの作品にTRYしました。
それが、自分が今までにない役者の顔をしていたのですごくうれしくて貴重な作品になりました。」

司会「ありがとうございます。本当に楽しみですね。是枝さん、今の阿部さんの話しを聞いていかがですか?」

是枝「あの今回脚本を珍しくきちんと書いて、役者さんがそろって本読みをしたとき、あっ、面白いかも。という自信のようなものが僕だけではなくて、たぶんキャストの中でも生まれたんですよね。誰かが突出して何かを主張するわけではなくて、そこでアンサンブルで一組の家族とか1日の時間とういうのが描かれる。その関係のなかに皆が身を置いて、距離を測っていて、この家族はこういう親子なんだな、夫婦なんだなと皆さんキャスト同士がつかまれたのが分かったので、もうこのまま撮影を始めて大丈夫だなと思ったぐらい、やっぱ、いい関係を大事にするいい役者さんが集まるとこういう映画ができるのだと、僕自身出来上がった映画を見た時の喜びでもありましたし発見でもありました。」

司会「ありがとうございます。ここでちょっとしたサプライズですが、阿部さんが・・・・」
「それでは最後に1言ずつお願いいたします。」

是枝「なんにも起きない映画なんですよ。書いてるときも何にも起きないなと思いながら書いていて、読んでもらったらYOUさんに地味な話ねと。その通りの映画なんですけど、
ただ見ていくと、見ている間も、たぶん見終わった時もいろんなことを想像する見終わった後にいろんなことが始まったりする映画になったなと思っておりますので是非最後まで見ていただきまして、面白かったらシアターキノに行って、分からなかったらまた行っていただければと思いますので宜しくお願いいたします。」

阿部「僕はこの映画に出演できたのがほんとうに光栄でした。この作品を見たときに僕はすごく面白かったです。これから皆さんこの作品を見ることになると思いますが、この映画ぼくは応援してあげたいと思うし、ホントに面白かったら宜しくお願いします。」

司会「お二人に盛大な拍手を・・・・。」




是枝監督ティーチイン
司会「ありがとうございました。さっそくですがティーチインに入らせていただきます。」

質問「映像の中で写っていたきれいなピンク色の花はなんとういう花ですか?」

是枝「さるすべりです。特別に個人的な思い入れがあった花では実はないのですが、映画の中で庭の緑の色をきれいに出したいなと思った時に、紅い花をポイントに置きたいなと思ったのでさるすべりにしました。」

質問「それともう一つ、あのキレイな海岸は三浦半島のあたりですか?」

是枝「あの、すごく組み合わせて色々作っているものですから墓地から見える海は久里浜なんですけど、実際に最後のシーンで男三人が行く浜辺はまた別の浜辺だったりしまして、家へ向って登っていくあの緑につつまれた階段は葉山という別のところで撮っていたりしまして、僕もいますぐ地名が出てこない場所があるんですが、組み合わせて作っております。」

質問「会場入場のときに頂いたパンフレットの中一つに、川上弘美さんのコメントがあったのですが、それを読んで最初の1、2分と言わず映画全体でお腹が空くような映画だったと思いました。川上弘美さんにコメントを寄せられたエピソードを何か一つ聞かせてください。」

是枝「僕、大ファンで、雑誌で一度対談させていただいてから、時々お食事をご一緒したりということが。いいでしょ。笑
川上さんの小説もすごく食べるシーンとか食事のシーンというか食べ物がおいしそうに書かれていることもあって、今回まっさきに見ていただきたいなと思いまして、見ていただいたところ、とても素敵な文章をいただきまして、FAXで最初にあの原稿をいただいたときに、自分の映画について書かれているということを抜きにして、涙が出るような思いを持ちました。」

質問「すごくじんわりとする映画で役者さんが個性が豊かな方々が多くて、私もすごく大好きな阿部さんとか、あとYOUさんがすごく好きなんですけども、前回も「花よりもなほ」を見せていただきまして、すごく監督のキャスティングが、えっ!と驚くような方々をキャスティングしていて、この人たちでこういうのができるんだ。この人にこんなのがあったんだというのが多かったんですね。「誰も知らない」もそうです。監督自身が役者さんに対して例えば演出をするときに気をつけていることとか、役者さんとのコミュニケーションでああいうのが生まれるのか、どういう風にしたらああいうキャラクターが引き出せるのかなと。YOUさんとか他の方々がおしゃべりするシーンが多いですよね。
あれは台本なのか、どこがアドリブなのかすごく分からなかったんですが、そのへんのところの撮影時の秘話があったら教えてください。」

是枝「秘話はないのですが、キャスティングはあまり別の方が演出されたものを見て決めるというよりは、ほぼ直感で、さっき阿部さんをチンパンニュースで選んだようにYOUさんとかも夜中のバラエティーを見ていて、この人はすごく頭の回転が速いなというようなところで選んでいたりするんですよね。今回も非常にアンサンブルが大事でほぼ家の中で進んでいく会話劇なので会話のリズムをどういう風に役者さんの中で作っていくかということを念頭に置きながら一人ずつ選び、声をかけ、決めていきました。ほぼアドリブがないんです。実は。
ほぼ全部書いたものを本読みをして作っていっているんですけど、でも本読みを役者さんと一緒にするときにここは「は」じゃなくて「が」のほうが言い易いのかとか、ここは「、」じゃなくていっぺん「。」を打とうかとか。そういうのを役者さんの声を聞きながら変更を加えていくんですね。役者さんと僕の間に一つのキャラクターをどうやって作っていくかという作業をかなり今回はねんみつにやったので、そのへんでたぶん彼らから自然と発せられているような会話になっているのではないかと思います。
いくつかのシーンはアイディアをいただいて、アドリブとはちょっと違うんだけど、YOUさんとかはほうっておくと、間ができると、何か台詞じゃない一言をぽんと言ったりされるので、そういうのが逆に映画を活き活きと動かしてくれているのでとても助かります。
あとは、希林さんとかは、始まってすぐ枝豆をむきながら娘の髪の毛をさわるシーンがあって、きれいな顔してるんだからおでこをもっと出しなさいよ。と言って髪に触るのが、現場で希林さんが触りたいと、どうしてもこの人にそう言いたいと。そういうシーンを足しました。
ところどころそういうシーンがあります。」

質問「役者さんから、こうしたいのだけれど。と?」

是枝「そうですね。そういうアイディアをいただくこともあるので、これはすごく良くなるなと思ったらいただきますね。そのシーンはその後に今度YOUさんの娘がお父さんと来たときにYOUさんが娘の髪を結ってあげているシーンがあるんですけども、そこで自分の娘に触るので、その前に自分の母親に触られるというのはおもしろいなと思って、そういう関連が自分の中で見出せると、時には、そうのようなアドリブのようなものをいただいて作品に残すようにしております。」

質問「最後に黒姫山はなぜでてきたんですか?お相撲さんの名前のエピソード。誰なんだろうと。あれがすごく気になって。あれは監督の好きな方なのか、それとも別に監督が経験されたことなかのと」

是枝「あれは本当にうちの母親が、黒姫山が出てくると、なかべそなかべそとおもしろい顔をしてるわね。ってよく言ってたのを思い出して登場させました。」

質問「前半の方の食べ物を食べているシーンが印象に残っているんですけれども、その中でともろこしの天ぷらというのが僕は印象が強かったんですが、あれは監督の思い出の料理であったり、何かそういったエピソードがあるのでしょうか?」

是枝「僕が子供の頃に、母親が作ってくれていた好物をそのまま登場させました。
晩飯のおかずによくでてきて、けして高価なものではなかったのですが、父親の給料日だと天ぷらとうちは決まりだったので、何か特別な日があるとうちは天ぷらをしたんですよ。
その中でとうもろこしのかきあげが一番人気だったんですね。
北海道、ぜひとうもろこしがおいしいでしょうから、やっていただけると。
あんまり、僕、うちでしか食べたことがなくて表で食べた経験がないのですが、簡単にできるので跳ねるのさえ注意していただければ、おいしいと思いますので是非。」

質問「他になにか食べ物でもなんでも、気をきかせてみたところってありますか?」

是枝「気をきかせたというか、ああいう時に、子供達とか孫が集まった時に母親が何をしただろうなと想像すると、寿司を取ってるのにご飯物をつくるという余計な事をしたなとか。白玉とかもよく作っていて、味があるものじゃないのになんか子供が来ると白玉、白玉とやってたなぁと。本当に、個人的な記憶でごめんなさい。今回はそういうのをかなりそのままやっているんですよね。」

質問「ありがとうございます。監督のこういう場面でしか聞けない話を聞けていい思い出になりました。」

質問「もん白蝶のエピソードがとても印象に残っているのですが、あれは完全にオリジナルですか?それとも何かにインスパイアされて書いたものですか?」

是枝「すみません、母親がですね。母親がよく言っていたことで、もん黄蝶を見ると、あれはもん白蝶が年を越すとああいう風に黄色くなって帰ってくるんだと。
子供の時に聞いてたときはああそうなんだと、白いのが年をへて黄色くなるってなんとなく納得できるじゃないですか、信用してたんですけど、あとで調べたらまっかな嘘だったんですが。なんかそんなことを言っていたんですよね。あと蝶々ってそういう亡くなった人を重ねたり、蝶々じゃないかもしれませんが、そういうことをするでしょ?虫に対して。そういう想いを運んでくる生き物なのかなと思ったのでああいう形で蝶々を出したんですけども。」

質問「実は6月1日が私の母の一周忌なんです。こういう映画ということはあまり何も考えないでというか、樹木希林さんが出ていて、阿部寛さんなんでそうだろうなとは思いつつ全く予備知識がなく来たんですね、私も母が普通の死ではなく事故死なんですね。
本当はこの次亡くなってから2年目なんですが、死がはっきりしたのが1年前なので一周忌ということなのですが、悲惨というよりは必ず順番としてはそうなんだと思っていたんで、苦しいという気持ちはそんなになかったんですけれど、もう明後日になるというのに、何ヶ月間かけてうちの母が好きだったものとか父も亡くなっているので父が好きだったものとか、色々お土産とかを買っているんですよ。姉妹で旅行に行ったりするんで梅酒とか買ったりして、でもさっぱり片付けられていないというか。荷物の中に入れられてなくて、今日まだ何も用意してないんですね。仕事があってから終わっていくというのに。
今日映画を見てすごく感じたことは、同じなんだな。と。私と監督の気持ちって。
樹木希林さんウチの母全く似ていなかったのですが、すごく似ているんです。映画の中で。本当に笑って、自分の母を思い出したいなぁということで。ちょっと話してるうちになきそうになっていますが、本当にうれしかったです。けじめがついてきちんと。姉たちと旅行に行けるなと、とても感謝しております。」

是枝「作っといて言うのもなんなのですが、僕は僕の母へ向けて色んなやりきれない思いを映画にこめたすごく個人的な映画なんですが、見た方たちが自分たちが今までの人生の中で、お別れをしたり、見送ったり見送られたり、そういう関係の中でつくってきた色んな人間関係をぼくが作った映画にどこかしら重ねあわせながらて見ていただいて、これで家族にやさしくしてください。という映画では全然ないのですが、なんかそういうところに思いを運んで持ち帰っていただける映画になっていればいいなと思います。ありがとうございました。」