北海道新聞 2008年(平成20年)3月31日(月曜日)より
「故郷」に寄せる思い熱く 〜ゆうばり国際映画祭2008
23日に開幕した「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2008」。夕張市の財政破たんによる中止の後、市民が中心となった運営に衣替えして復活した背景には、「出会いの祝祭」への熱い支持がある。規模はひと回り小さくなったが、「ゆうばり」が果たしてきた役割と意義をより浮き彫りにする再スタートとなった。
(山本孝人)
作品への温かなまなざし
オープニングを飾った招待作品が「僕の彼女はサイボーグ」(クァク・ジェヨン監督)。平凡な大学生(小出恵介)と突然現れたサイボーグの彼女(綾瀬はるか)が切なくもコミカルにラブストーリーを繰り広げる。2003年に夕張でともにヤング・コンペティション部門の審査員を務めた、「猟奇的な彼女」のヒットで知られる韓国のクァク監督と山本又一朗プロデューサーの出会いから生まれたゆうばりを象徴する一本だった。
「作品に対する意見がクァク監督とよく一致し、クリエイターとして信頼感がうまれた」と山本氏。03年の映画祭期間中とその後の東京で二人は毎晩ともに過ごし、「一緒にやろう」と意気投合した。その後、クァク監督が贈ってきた脚本に山本氏がほれ込み、企画が動き出した。「『ご一緒に』と口では言っても、なかなか実現できないことが多い。互いの気持ちをすり合わせていくのが大切です」。クァク監督は山本氏の粘り強さによって作品が形になったという。
劇中、主人公が故郷を訪ねる。ロケは岐阜県郡上八幡だがその場面には夕張の炭住を思わせる風情も漂う。「編集中、僕たちもしばしばそのような感情にかられました」と山本氏は振り返る。「夕張は来るたびに故郷に帰ってきたように感じます」とクァク監督。
今回が一般観客に向けた全国初上映の機会。「夕張で始まった作品が5年越しで完成し、3月の映画祭に持ってこれました」。山本氏は不思議なめぐり合わせを感じるという。
夕張での受賞が韓国映画界に影響を与えた作品もある。
今年の招待作品「光州5・18」のキム・ジフン監督は、刑事とやくざが主人公のアクションコメディー「木浦は港だ」で04年にヤング・グランプリを受賞した。「韓国でコメディーの評価は低く、受賞自体が驚かれました」とキム監督。以降、コメディーにも作家性を込めた作品ができると認知されるようになった。「ゆうばりで賞をとったことが大切でした。国内だけでなく、日本など海外でも評価されるということを示しました」。
受賞が弾みとなり、今作につながる。1980年に軍が市民に銃を向けた「光州事件」を正面から取り上げた人間ドラマに、アクション、コメディー、ラブストーリーを織り込んだ娯楽作は評判を呼び、昨年、韓国で観客740万人の大ヒットとなった。
素直な心で付き合える場
期間中、シンポジウム「出会いの場としてのゆうばり」が開催された。クァク監督、山本氏、キム監督のほか、03年のヤング・グランプリ受賞作「地獄甲子園」の山口雄大監督、漫画家の永井豪氏がパネリストを務め、それぞれが夕張とのかかわりや映画祭に寄せる思いを披露した。
「とことんバカなコメディーを作っても、評価してくれる」と山口監督は率直に語る。
「権威ではなく、まだ世に知られていない作品、面白い作品を紹介し、応援することに意味があります」。オフシアター部門プログラミングディレクターの塩田時敏氏はゆうばりの賞の意義を説明する。
現在、世界の映画製作では要所に代理店が介在し、書類のやりとりが前提の「ハリウッド・システム」というビジネスの手順が主流という。「ゆうばりは対極の土着のにおいがする。作り手、配給など映画会社の人々も胸襟を開いて素直な気持ちで付き合える場所です」。山本氏は世界中でこの映画祭にしかない感覚という。それが「人と映画に出会える場」として多くの映画人をひきつけている。
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