『シッコ』プレスより
日本の医療改革に警鐘を鳴らす『シッコ』
―医療従事者のみならず、多くの日本人が必見の映画―
全国保険医団体・理事 三浦清春
映画『シッコ』は、医療分野を市場化し営利企業を参入させれば、どんなに残酷な医療になるのかをこれでもかと見せてくれている。これは国民皆保険制度がないアメリカ国民のための映画である。しかし同時に、日本国民にとっても非常にタイムリーで教訓に満ちた映画となっている。それは日本の「医療構造改革」が、アメリカのように市場原理を導入して営利企業の参入を目指しているからである。
アメリカの医療制度と医療事情
アメリカ医療の最大の特徴は、全国民を対象にした公的な国民皆保険制度がないということである。従って民間医療保険が中心で、医療は保険商品の売り買いを基本とする市場原理のもとで行われる。この民間医療保険で国民の約60%がカバーされている。高齢者や貧困者などに対しては公的医療保険(メディケア、メディケイド)が存在し、国民の約25%が加入している。あと残りの約15%の人が無保険者で4700万人もいる。
民間保険会社は営利の株式会社がほとんどである。利潤を最大限にして株主配当を多くする使命を負っている。従って命の分野といえども経済的インセンティブが強く働いている。例えば病気がちの人は最初から排除し、また加入している人に対しても様々な理由をあげて平気で支払いを拒否する(映画のとおり)。また、医師や病院に対してもその診療に介入してくる(HMO型保険など)。治療を拒否してくれた医師にボーナスを支給する保険会社もある。
一方公的医療保険も問題を持っている。高齢者医療保険メディケアは長期入院と外来処方薬を給付していない(最近給付する動きもあるが)。薬は自由市場でかなり高くなってきているので、患者によっては隣のカナダまで安い薬を買出しに行く人もいる。
以上のようにアメリカの医療は弱肉強食の市場原理で行われ、命より利益が優先されて、国民の中に様々な悲劇が生まれている。
日本の「医療構造改革」
経済財政諮問会議等が主導してきた日本の医療改革は、患者負担増だけでなく、医療分野を規制緩和し、市場原理を導入して営利企業の参入を図るものである。これは、医療を新たな儲けの場と考える日米保険業界などの財界の意向である。その具体的表れの一つが昨年の「保険外併用療養費」(実質的混合診療の解禁)の創設である。今後、混合診療の対象は広がっていくものと思われる。そうなると患者・国民は、公的保険の自己負担部分以外に保険外の自費部分も準備しなければならないことになる。それは営利詩情の拡大を意味する。民間医療保険の急速な普及はこういった事情による。
株式会社による病院経営の解禁も大きな問題である。まだ医療特区に限ってのことだが、昨年神奈川県で第一号の株式会社の医療機関が開設された。しかし、命と健康をあずかる病院において営利を目的とする株式会社がなじむのだろうか。アメリカでは株式会社病院も許可されている。アメリカに医療視察に行った時のことだが、アメリカの株式会社病院も利潤追求のため医療を歪めているという話を多く聞かされた。
今後一層拡大される営利産業として、IT関連産業、健診・保険関連産業、在宅・長期入所・介護関連産業などが想定されている。
映画に見るアメリカ医療からの教訓
映画では、市場原理で営利資本が跋扈(ばっこ)するアメリカ医療と、国が責任を持ち社会保障の一環として行っているその他の国の医療とを対比している。どちらに軍杯が上がるかは歴然としている。日本の医療改革を考えるにあたっていくつかの教訓を読みとってみる。
まず、国の責任で社会保障としての国民皆保険制度を堅持することである。それがすべての医療改革の土台であり、すべての国民のためであり、そしてそれが世界の大勢である。医療には、市場化・営利化はなじまないのである。次に、保険給付は「現物給付」で、窓口一部負担や混合診療は原則禁止にすることである。自己負担や自費診療があると必ず医療を受けられない人が出てくる。三つ目は、民間医療保険は公的医療保険に決して代われるものではないということである。民間医療保険は医療を最も必要とする人を真っ先に排除するからである。四つ目は、ひとたび医療分野を営利企業に解放してしまうと、もう元の医療制度に戻すことはきわめて困難となるということである。アメリカでは有力議員は共和党も民主党も関係なく保険会社や製薬企業から多額の献金をもらっている。国民皆保険制度を目指したあのヒラリー・クリントン議員でさえも例外でない。五つ目に、政府のプロパガンダで洗脳されないことである。アメリカ政府は国民皆保険制度にすれば共産主義になると国民を脅し続けてきた。国民皆保険制度は資本主義も社会主義も関係ない話なのである。
最後に・・・
昨年の医療改革法に基づき、日本の医療制度は来年4月より大きく変わる。この時期に改めてこれまでの医療制度を検証し、将来の日本の行く末を考えてみる必要がある。その意味で映画『シッコ』は医療従事者のみならず、多くの患者・国民、そしてすべての議員・マスコミ関係者に是非とも見てほしい映画である。
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