2007年3月23日北海道新聞朝刊 より
関西テレビの情報番組「発掘!あるある大事典関西テレビの情報番組「発掘!あるある大事典2」の捏造問題は、社会に衝撃を与えた。マスコミ、特に影響力を増す映像メディアと、どう向き合えばいいのか。オウム真理教を密着取材した自主制作映画「A」や著書「ドキュメンタリーは嘘をつく」で知られ、10日に札幌で「メディアが作る不安」について講演したドキュメンタリー作家の森達也さん(50)に聞いた。
(町田誠)
――「あるある」事件を、どう受け止めますか。
「ボイスオーバー(吹き替え)の使用が印象的です。取材相手の発言を別の音声で消してしまうと、捏造でも何でもありになる。そもそもボイスオーバーは取材相手の声の震えなど現場の雰囲気を残せないので、かつては禁じ手でした」
――なぜ「禁じ手」が使われるのでしょう?
「視聴者が、過剰に分かりやすさを求めるからです。吹き替えなら画面を見なくても内容が頭に入りますし、文字を目で追わなくてもいい。テレビの視聴率は一分ごとに測定されるので、制作側は吹き替えで視聴率が上がるなら、番組の質が下がっても使います」
――「分かりやすさ」が求められる理由は?
「他者への不安と恐怖が根底にあると思います。一九九五年の地下鉄サリン事件以降、顕著になりました。この事件は、いまだに本当の動機が分かっていない。動機が不明だから人々は不安を募らせ、理解できない他者を排除して監視し、仮想敵をつくる。誰が主人公で誰が悪役なのか、黒か白か、早く結論をほしがる。分かりやすく見せるため、取材で集めた情報に水増しするのが『やらせ』です」
――「やらせ」について、どう考えますか?
「制作者がつかんだ真実を効果的に伝えるためには、演出つまりウソもありだと考えます。九二年に放映されたNHKスペシャル『奥ヒマラヤ禁断の王国・ムスタン』は人為的に砂嵐を起こした点もやらせと批判されましたが、事実の再現は、ぎりぎり許容範囲のウソだと思う。でも制作者が自分の真実を裏切り、ないものをつくってはいけない」
――放送局が番組制作を安く外注する構造も、捏造の温床とされています。
「下請け会社に権利がなく末端化している点が問題。十分な予算がなければ、取材時間が削られ、無理が生じる。下請けは完成品を納めた後に代金をもらうので、とにかく番組を完成させないと商売にならない。放送作家の存在も無視できません。番組の企画やナレーション原稿を書き、編集も指示する役割ですが、取材現場には行かない。だから取材実感にこだわらず番組を編集できるんです」
――「食べるだけでやせる食品なんてない。視聴者は賢くなってほしい」との論調もありました。
「視聴者に捏造を見抜く冷静さを求めるのは、無理なんじゃないでしょうか。もしかしたら本当に食べるだけでやせる食品があるかもしれないと、僕だってあの番組を見れば思う。人間の生理としては、見た映像を信じてしまうんです」
――だまされないためには、どうすれば?
「極論すれば、だまされないことは無理。ドキュメンタリーや情報番組は客観的事実ではなく、あくまで『誰かの意見表明』にすぎないと思うしかない。『信頼していたのに悔しい』と憤る視聴者も、『信頼を裏切り申し訳ない』と謝るテレビ局も、両方とも違うんじゃないか。見る側が番組を信頼しすぎてはダメだし、つくる側が真実だと信頼させてもいけない。真実は伝える人によって違う。メディアの本質は主観であり、フィクションなんです」
――そうした心構えを持つのに必要なことは?
「『許せない』と非難するだけでなく、違う視点に気づけるかどうか。自分の考えとは正反対の論調も含め、多様な意見に接するよう心がければ、メディアからの情報が一つの視点にすぎないと分かります」
「僕は、メディアは世論に引っ張られていると思う。テレビなら視聴率だし、雑誌や新聞なら購読者数です。視聴者である僕らが変わればメディアも変わる。数通の手紙でも効果がありますよ。クレームではなく、良い番組や記事に激励のメッセージを届けてあげてください。現場はとても力づけられますから」
この日、講演から、取材、キノ映画ゼミ、終了後の打ち上げと半日以上森さんに同行して、
私が感じたポイントを追加しておきます。
★「わかりやすさ」を求める、現在の状況は、不安からくる。不安を解消するには、不安な相手が何を考えているかを学べばいい。知らないとますます過剰防衛におちいっていく。
★制作者は、自分の考えを堂々と述べる作り方をしよう。そのために、演出やウソは全くあり!しかし、自分がつかんだ真実を裏切るな!事実は一つしかないが、その事実に対する、考えかたや表現は、多数ある。だから、観る側は、ドキュメンタリーであれ、報道であれ、それが作り手の表現であり、考え方であり、主観であって、公正中立という客観性はありえない。いわば、この文章は、中島の意見なのだ、ということ。白か黒かは、マスメディアが決めるのではなく、私達それぞれが、自分自身で決めなくてはならない。
★そして、このインタビューの最後にもあるように、大切なのは、この不安なメディア状況を嘆いたり、批判するよりは、むしろ、自分が素敵だ、いい考えに基づいている番組だ、良い記事を書いていると思ったら、そのことを一枚のハガキやメールでもいいから、送ってあげ、応援することで、それが、メディアを必ず良くしていくことにつながる。
シアターキノ代表 中島洋
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