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北海道新聞2月20日(火)夕刊

事故死の北大生主演短編 欧州映画祭グランプリ

 シンガポールの若手映画監督が道内の雪景色を舞台に撮影した九分間の作品が今月上旬、欧州最大の短編映画祭でグランプリを獲得した。主演は撮影当時、北大文学部二年だった村岸宏昭さん。映画のBGM作りにも参加し、作曲家を志していたが、昨年夏、不慮の事故で帰らぬ人になった。「元気だったら、喜んだでしょうね」。母令子さん(54)=札幌市北区=は宏昭さんのあこがれの地フランスでの受賞に、喜びをかみしめている。

 映画はロイストン・タン監督(30)の「モンキーラブ」。宏昭さんが扮したサルがウサギに心を盗まれる物語だ。クレルモンフェラン短編映画祭では、短い映像に多くの意味が込められた「俳句のような作品」と評価され、ラボ(実験映像)部門の最高賞に輝いた。

 同監督は米タイム誌が2004年、活躍が期待される「アジアのヒーロー20人」に選んだ新鋭。「モンキーラブ」は2005年1−3月、札幌のNPO法人S-AIR(エスエア)などの招聘で札幌に滞在した際に製作した。

 雪の降らない国に生まれた監督にとって、白い大地は初めて見る美しさだった。「昔ながらの8ミリフィルムで何か撮りたい」。歓迎パーティーで知り合った当時21歳の宏昭さんに「映画に出ないか」と声を掛けた。

 宏昭さんは北大で芸術学を専攻。芸術家が集うフリースペースに出入りし、高校時代から始めたギターを奏でたり、川をテーマにした空間芸術に取り組んだり、多彩な活動をしていた。エスエアの本間貴士代表代行はタン監督の言葉を覚えている。「若い時の自分とそっくり。何をやったらいいのか、もがいている」

 撮影は札幌市内や後志管内喜茂別町の中山峠などで行われた。BGMは宏昭さんのギターの即興演奏をもとに、札幌の音楽家塚原義弘さん(46)が作った。「あなたに会ってからの日々がむなしい。医者は僕の心が盗まれていると言った」。宏昭さんのつぶやく声が、もの悲しい音楽と重なる。

 映画は05年4月に完成。宏昭さんはDVDを令子さんに見せるなど、その出来に満足していたが、昨年8月、突然不幸に襲われた。よさこい祭りに参加するため、滞在していた高知市で川遊びの最中に流された。22歳だった。

 令子さんはDVDを見た時、宏昭さんが「映画に出ているなんて、どうしても不思議だった」。でも、今は違う。作品は宏昭さんの生きた証しだと思うようになった。

 「亡くなってからもプレゼントをくれた」。令子さんは静かに言った。


<クレルモンフェラン短編映画祭>
フランス中南部の都市クレルモンフェランで毎年1-2月に開かれる。今回は世界約100ヶ国から約5600本が寄せられ、国内部門で65本、国際部門で70本、ラボ部門で46本が上映された。