北海道新聞 2007年(平成19年)2月9日(金)夕刊より
市民有志で上映多彩 広がる「コミュニティシネマ」
「自分たちが見たい映画を見よう」「多彩な映画を上映しよう」。そんな思いから北見、帯広に地元有志の運営で生まれたミニシアター。北見はオープンからまもなく一年、帯広は営業を平日に拡大して一年がたった。全道各地に広がりつつある「コミュニティシネマ」という活動と、映画館の現状を紹介する。(山本孝人)
北見、帯広 口コミでヒット作、手応え 商店街活性化も手助け
JR北見駅前のきたみ東急百貨唐。NP0法人「コミュニティシネマきたみ」が運営するミニシアター「シアターボイス」は、この百貨店の六階にある。2006年3月1日にオープンし、これまで邦画、外国映画25作品を上映している。
北見市内にあった映画館は、2000年9月に市内の住宅街に7スクリーンの複合型映画館(シネコン)が進出した影響を受け、同百貨店直営の「ホール109」を含めて3館すべてが相次いで閉館した。
「シネコンでかかるのは公開作品のうち2割ぐらい。『もっといろいろな映画が見たい』という素朴な欲求です」。05年夏、映画ファンでもある同百貨店営業部長の伊藤文一さんが地元映画鑑賞団体の役員などとともに同ホールの活用を検討し、NPO法人を設立して大きな映画館では上映されることの少ない作品などを紹介する「コミュニティーシネマ」として再開した。「地域の映像文化の支援と空洞化が進む駅前の商店街の活牲化が設立趣旨の二本柱です」。自ら事務局長を務める。
客席は88席、1スクリーン。専従スタッフは1人。毎週火曜が休館。1作品を1日4回、2週間の上映が基本。客層は作品によって違いはあるが30代から年配の女性が多い。百貨店内という立地から同店商圏である市内と近隣が中心だが、十勝管内北部からも来館している。 JR帯広駅から歩いて五分ほど、帯広の中心市街地の中通り。築55年の建物の二階にある「CINE(シネ)とかちプリンス劇場」は、地元の映画上映サークル「CINEとかち」(豊島晃司代表)が運営している映画館だ。06年1月13日から平日上映をスタートし、昨年は31作品を上映した。
CINEとかちは、以前から自主上映を手がけていた高校教員の豊島晃司さんが中心になってCINEとかちを設立。01年3月からホールや映画館を借りて月1回程度の上映会を続けていた。そんななか、03年秋に閉館を決めた老舗館「プリンス劇場」の利用を持ちかけられ、実質的に営業を引き継ぐ形で、活動拠点をここに定めた。上映活動の積み重ねが常設館の運営につながった。
客席80席、1スクリーン。同年11月から毎月下旬の週末1、2回、1力月に計4〜6日というぺースで上映をスタートした。「この回数では見逃してしまうという声が寄せられるようになった。こちらも上映作品を増やしたくなりました」と豊島さん。
06年1月からは平日営業に踏み切り、平日1回、土・日躍は各4、5回の上映、毎週月曜休館とし、活動を本格化。1作品を2週間、1力月に2、3作品上映のぺースにした。今年1月からは平日、土・日曜ともに上映回数をさらに増やし、月4、5作品に拡大している。
運営は、劇場で映写経験のある専任スタッフを中心に、それぞれ仕事を持つサークルのメンバーが輪番であたる。入館者は、女性を中心に十勝管内が主な客層だが、作品によって釧路や旭川からも訪れる。
帯広市内では03年11月に5スクリーンを備えたシネコンが駅前に進出したのと前後して、3力所7スクリーンあった既存映画館が順次、閉館。現在はこのシネコンとCINEとかちプリンス劇場の2館となった。
最近、北見のシアターボイス、帯広のCINEとかちプリンス劇場でともにヒットしたのは、「かもめ食堂」「フラガール」という。大規模な宣伝はないが、口コミで評判が広がった作品だ。伊藤さんは「人口13万人のマチだからといって、上映作品数が少なくていいわけではありません」と手応えを話す。注目されながら、市場原理からシネコンでは上映されにくい作品にも確実な需要があり、それを紹介する役割を地域のミニシアターが担っている。
地域の文化担う拠点 公共性重視 多様な運用形態 大手、大作以外にも光
北見のシアターボイス、帯広のCINE(シネ)とかちプリンス劇場など、地域の市民有志が運営するミニシアターや上映活動は、全国的にも徐々に広がってきている。これらの活動は「コミュニティーシネマ」という考え方が基本になっている。
コミュニティーシネマとは文化の公共性と地域性を重視して映像作品の上映、紹介をする映画館や活動のこと。シネコンで大規模に公開されるハリウッドの大作などと違って商業べースに乗りづらい多様な作品を、人口規模など地域の実情に応じた形で上映に取り組む。運営形態は会社組繊、NPO法人、任意のサークル団体、個人経営などさまざま。設立や運営の資金を市民から広く出資を募るケースもある。 道内では、1992年に札幌・シアターキノ、96年に函館・シネマアイリス、98年に苫小牧・シネマトーラスと、市民出資型の映画館ができている。また、日高管内浦河町の大黒座は大正時代から続く地域で唯一の映画館として演劇や演奏の会場にも利用され文化の拠点となっている。
北海道は広いエリアに都市が散在する地理的特性もあり、各地域での上映活動や映画館設立が具体化し、全国的にも取り組みが早い先進地城という。昨年、各賞を受賞した「ゆれる」(西川美和監督)、昨年のカンヌ映画祭のパルムドール受賞作「麦の穂をゆらす風」(英、ケン・ローチ監督)などはこれらの映画館が順次上映しており、映画を製作・配給する側からみても作品を広く紹介する役割を担っている。
先進国であるドイツでは公共映画館を意味する「キノコミュナール」が全国に約150所あるという。常設館のほか、公営の美術館や図書館のホールで定期的に上映する形で実質的に常設の映画館として機能しているケースも含まれる。運営費用の7割を入場料など事業収入、3割を国や州、市町村の助成で賄っている。
「文化の公共性とは、納税者が支えている福祉施策と同様に、多数が少数を支えていくという考え方です」。シアターキノ代表の中島洋さんはこう説明する。収益面から公開が限られる作品でも文化的価値があれば支えてゆくことが文化や社会の多様性の保障につながる。全国的にシネコンが主流になっている時代だからこそ、コミュニティーシネマの役割も重要になっている。
競争激化、シネコン主流に
道内で今年1月現在、常設営業をしている映画館は33カ所、125スクリーン。このうち、同一個所(サイト)に5スクリーン以上を備えて一体営業をしている複合型映画館(シネマコンプレックス=シネコン)が12サイト、93スクリーン、一般館は21力所32スクリーン。既に映画館の主流はシネコンになっている。
1997年に常設営業していた映画館は全道で57力所、89スクリーン。17市町に映画館があった。この10年間でスクリーンの総数は、全道各都市へのシネコンの進出によって大幅に増えたが、映画館の数自体が減少する傾向がはっきりと進んだ。現在、映画館が存在するのは15市町となっている。道内のシネコンの本格的な進出は、97年11月の江別の8スクリーンを備えるワーナーマイカルシネマス江別が皮切り。外資や全国資本の進出と同時に、地元既存館のシネコンヘの転換も進んだ。競争激化によって帯広、北見では既存館が姿を消し、滝川、赤平、留萌、釧路の各市、日高管内静内町(現・新ひだか町)では映画館自体が無くなった。札幌、旭川でもシネコンヘの転換・統合、あるいは既存館の閉館が相次いだ。
現在、函館の郊外でも7スクリーンのシネコンの入る商業施設が計画されている。
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