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朝日新聞夕刊より

ベネチア映画祭報告
「コンペ外」個性の輝き

秀作続々「競争より実験」

中国のジャ・ジャンクー(賈樟柯)監督の金獅子賞受賞で閉幕した、第63回ベネチア映画祭。華のコンペティションは世界の映画ファンの関心事だが、今回特筆すべきは、映画祭のもう一つの顔と言える、オリゾンティ部門の充実ぶりだった。コンペ以上の秀作ぞろい、との声も多く聞かれた。
(ベネチア=宮崎陽介)

オリゾンティは英語のホライズン。地平線の意味だ。今年は特別出品を含む24本がそろった。
「コンペは今秋以降の世界の映画界の流れを作り、刺激を与える。オリゾンティは未知の魅力が感情を揺さぶる、発見の場」と、映画祭ディレクターのマルコ・ミュラー。コンペ作品の選出は合議を踏まえるが、オリゾンティは彼自身の裁量がかなり働くという。

例えば、ベルナルド・ベルトルッチの弟ジュゼッペがパゾリーニを描いた作品があり、ロベルト・ロッセリーニの息子ジルが新作を持ってきた。映画監督の血筋を観客に実検させたのも、ミュラーの計らいか。

この部門は劇映画もドキュメンタリーもあり、双方一本ずつに部門名を冠した賞を贈った。劇映画の受賞はリゥ・ジェ(劉傑)監督「馬背上的法庭」。中国・雲南の村々を3人の裁判官らが馬と巡り、金の貸し借りから、隣人に家畜を食われたといった争いまでを仲裁する。小粒で牧歌的な佳品が頂点に。話題性や興行から離れた視線を感じた。

ドキュメンタリーの受賞は米国のスパイク・リー監督「ウェン・ザ・レビス・ブローク」。ハリケーン・カトリーナの被害を直視した4時間超の大作だ。人をのむ濁流、無残な多数の遺体、泣き崩れる人に決然とカメラを向けた。

監督は「救援のシステムに問題があった。ブッシュ大統領が言うほどニューオーリンズは回復しておらず、住民の75%は帰宅できない。これは政府に恥をかかせる作品だ」と述べた。

過激な発言と裏腹に冷めた目があり、感性が息づく。葬列を先導するジャズの楽隊は、この音楽がそもそも悲しみから出発したことを、言外ににじませた。

ドイツのフランクフルター・アルゲマイネ紙の記者は「個性と感性は、商業的思惑もあるコンペよりオリゾンティでこそ光る。映画祭には競争より実験がふさわしい」と語った。

オリゾンティの中で、彼が推したのはデビッド・リーフ、ジョン・シャインフィールド両監督の「U.S. vs.ジョン・レノン」。ベトナム戦争への抗議など、平和運動家レノンに照準を絞り、米政権批判を込めた。製作のきっかけは9.11テロとイラク戦争だという。レノンの曲を数々収め、口ずさむ観客も多くいた。

話題作ならダグラス・マクグラス監督の米国作品「インファマス」。トルーマン・カポーティが代表作「冷血」を書くまでの、あざとい取材や苦悩――。ベルリン映画祭のコンペ部門で、フィリップ・シーモア・ホフマンが米でアカデミー賞主演男優賞を受けた「カポーティ」と筋書きが酷似し、関心を呼んだ。

映画に詳しいベネチア大学のロベルタ・ノビエッリ助教授は、「市場向けのショーウィンドーといえるコンペと違い、オリゾンティは実験の場。暗い映画など見たくない、撮りたくない。そういうバブルの時期が過ぎ、作家が個人の関心や問題意識を個性で切り取るようになった」と話した。