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北海道新聞2005年10月31日朝刊より

第18回東京国際映画祭は30日、最高賞「東京サクラグランプリ」にぱんえい競馬をテーマに帯広市内などで撮影された「雪に願うこと」(根岸吉太郎監督)を選んで閉幕した。同作品は最優秀監督賞、最優秀主演男優賞(佐藤浩市さん)、観客賞も同時受賞し、4冠に輝いた。同映画祭は世界の12大映画祭の一つ。日本映画の最高賞受賞は、第1回の「台風クラブ」以来。

コンペティション部門に出品された15作品と最優秀アジア映画賞受賞作の「細い目」(マレーシア)の計16作品から選ぱれた。

同日夜、東京・渋谷で開かれた授賞式で、根岸監督は「まるで夢のよう。日本映画の伝統である家族をテーマにした作品で受賞できてうれしい。支えてくれた帯広や競馬場の人に感謝したい」と話した。

同作品は事業に失敗した若者が故郷に戻り、ばん馬の世話をすることで人間的に成長するストーリー。帯広在住の作家、鳴海章さんの小説「輓馬(ばんば)」を原作に、今年2-3月、帯広競馬場などで撮影。十勝の雄大な風景やばん馬の力強さを描いた。

その他の主な受賞結果は次の通り。
■審査員特別賞「女たちとの会話」(米国)
■最優秀主演女優賞「女たち―」=ヘレナ・ボナム・力ーター、「私たち」(中国)=ジン・ヤーチン
■最優秀芸術貢献賞「ドジョウも魚である」(中国)

ばん馬の美しさ描く東京国際映画祭4冠に輝いた映画監督 根岸吉太郎(ねぎし きちたろう) さん

10月30日の授賞式でトロフィーを高く突ぎ上げ、喜びを爆発させた。
帯広競馬場など十勝を舞台にした監督作晶「雪に願うこと」。グランプリだけでなく最優秀監督賞など4冠に輝いた。「全く思いがけなかった」。公開は来年夏の予定だが、「撮影を支えてくれた帯広や競馬場の人にまず見てほしい」と繰り返した。

1978年に監督デビュー。「探偵物語」「ひとひらの雪」「絆(きずな)」など話題作を撮影してきた。こまやかな演出力と描写力には定評がある。今回も兄と弟の葛藤や家族のつながりを丁寧に描き、高い評価を得た。

映画は、知り尽くしているはずのことでも新たな発見を提示できる―。これが持論だ。本作についても「街の風景やばん馬の美しさ。スクリーンで、見たことのない面を見せてあげますよ」。

原作は帯広在住の作家・鳴海章さんの小説「輓馬(ばんば)」。邦画をともに引っ張ってきた故相米慎二監督が当初、映画化を予定していた。その相米監督は2001年に志半ぱで病死。「盟友」の仕事を引き継ぎグランプリを獲得した。「相米が引き寄せてくれたんじゃないかな。やっと四十九日を終えたみたい」

グランプリの賞金十万ドルの使い道を聞かれると、「今回も低予算で頑張った。もうちょっと円安になるまで待って(映画製作に)有効に使いますよ」と笑った。東京在住。五十五歳。(渡辺創)

帯広舞台「雪に願うこと」東京国際映画祭で4冠
ばん馬の迫力に脚光
原作者の鳴海章さん涙、監督「地元のおかげ」

厳冬期の帯広ロケ。延べ3000人の市民エキストラの協力…。第18回東京国際映画祭で30日、グランプリなど4冠に輝いた映画「雪に願うこと」の完成までには、多くの苦労と地元の人の協力があった。根岸吉太郎監督や主演の佐藤浩市さんは「帯広やばんえい競馬の人たちのおかげ」と真っ先に感謝を口にした。原作者で帯広市在住の鳴海章さん(47)は感激のあまり涙目に。ばんえい競馬関係者も映画による人気回復に期待を込めた。

≪作品のあらすじ≫
舞台は真冬の帯広・ばんえい競馬場。バブル崩壊後、東京で経営していた貿易会社を倒産させた学(伊勢谷友介)は、妻から絶縁され、友をなくすなど失意のどん底に。
挫折を隠して久々に故郷・帯広に戻った。ばんえい競馬の厩舎を経営する兄・威夫(佐藤浩市)と再会。豊かな自然の中で馬たちと寝起きをともにし、働く人たちと触れ合ううちに、学の心は癒やされ、再生へのきっかけをつかんでいく。

■現役馬が名演
「質の高い作品ばかりなので、受賞には本当にびっくり。寒い帯広で頑張ったスタッフ、帯広や競馬場の人たちにこの喜びをまず伝えたい」

根岸監督の受賞第一声は撮影を支えてくれた人たちへのお礼で始まった。監督にとって初の北海道ロケ。しかも、ばん馬という体重1トンの動物が相手だ。ストップ・ウォッチの液晶が凍るほどの厳寒など、数々の困難があった。

根岸監督は3年前から撮影の構想を温め、旭川、北見、岩見沢、そして帯広とすべての開催地でばんえい競馬を観戦した。

「ばんえいは世界で唯一の競馬。その魅力を伝えたかった」という監督の思いが実を結んだ。

映画の中で北海道弁で話し、馬を愛する男になり切った佐藤さんは「(地域や現場に)どれぐらいなじめるか、土着感が出せるかがポイントだった。厩舎に寝泊まりし夜中に飼い葉をやるなど出演者が努力したことが良かった」。

もう一つの主役であるばん馬たちの“名演”も大きな力になった。出演した馬たちは、すべてレースに出走している現役馬たち。根岸監督は「撮影の時、馬は『本番』という声が分かっていた。受賃したのでニンジンを100箱ぐらい買って送りたい」。佐藤さんも「何よりもお馬さんたちに感謝します」とコメントし、観客の笑いを誘った。

■魅カ全世界に
拍手が響く東京の授賞式会場には、鳴海さんの姿もあった。
「佐藤さんが主演男優賞を受貿したのを聞いて鳥肌が立ち、さらにグランプリと発表されて涙が出てきた。あいさつで根岸監督や佐藤さんが『帯広市民や馬たちに感謝します』と言うたびに涙が止まらなかった」と、興奮気味に話した。

帯広出身の鳴海さんは、東京で作家活動を続けていたが1997年、故郷に移住。祖父は帯広市内の農家で農耕馬を飼い、「小学生のころは馬に乗ってよく落ちていました」と懐かしむ。
いとこは現在も帯広市内で馬の生産農家を営む。「ばんえいはのどかなレースだと思っていたが、映画で見るとヘビー級ボクサーをリングサイドから見るぐらい迫力が
あった」。その魅力を表現し切った撮影陣をたたえた。
鳴海さんと授賞式を見守った砂川敏文帯広市長(57)は「この映画を通じて、帯広や十勝の魅力が全世界に伝わると思う」と笑顔を見せた。

■市民らも感激

2-3月の帯広競馬場での撮影中に根岸監督、佐藤さんらが毎日のように訪れた帯広中心部の「北の屋台」の欧風屋台「Anna Anna」を営む下川泉巳さん(41)は「グランプリ、監督賞、主演男 優賞も取るとは本当にすごいですね」と感激した。
エキストラとしても出演し、スタッフにおにぎりを差し入れるなど撮影を支えた。「撮影はぎすぎすした感じはなく、『根岸組』のチームワークが良かったのでは」と話す。撮影終了後、出演者やスタッフが感謝を込めて下
川さんに贈った寄せ書きを広げ、客とともに喜びを分かち合った。

ばんえい競馬を運営する北海道市営競馬組合の後藤誠二事務局長(57)は「(受賞で)ばんえい競馬が全国のみなさんに知ってもらえる。これを機会に、ぜひ多くの人に競馬を見に来てもらいたい」と声を弾ませた。